第三章「導きの光」-The Guiding Light-
第三章「導きの光」
夜の森に揺らめく淡い光。
マンジャロ、ランカ、ヴェルの三匹は、それをじっと見つめていた。
「……あれが何なのか、確かめに行くしかないな」
ランカが先陣を切るように進み出す。
「いやいや、待てって! こんな不気味な森で光が揺れてるとか、絶対ヤバいって!」
ヴェルがぶるぶる震えながら後ずさる。
「でも、あそこまで行かないと、この森を抜けられないかもしれないだろ?」
マンジャロが不安げに言いながらも、一歩を踏み出した。
ランカは、森に入った瞬間から感じていた。
視線。どこからともなく常に何かに見られている感覚。
その正体が、今、目の前に現れようとしていた——。
闇の中を慎重に進み、光が発せられる場所へと近づく三匹。
しかし、突然、頭上から猛烈な風が吹き荒れた。
「な、なんだ!?」
「上だ!」
見上げた瞬間、黒い影が急降下してくる。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
巨大な鳥の群れが、猛スピードで襲いかかってきた。
「何だこいつらぁぁぁぁ!」
ヴェルが悲鳴を上げながら、必死に逃げ惑う。
「くっ……このままじゃやられる!」
マンジャロが身構えるが、次々と襲いかかる鋭い爪に翻弄される。
「ヴェル、マンジャロ! 大丈夫!?」
ランカが叫ぶが、二匹は鳥の群れに押し込まれ、今にもやられそうになっていた。
その時——。
「やめろ!」
鋭く響く声が森にこだまする。
鳥たちの動きがピタリと止まった。
空から堂々と降り立つ一羽の巨大な鷹——ホーク。
その鋭い眼光が、ランカの首元をじっと捉えた。
「そのネックレス……」
ホークはゆっくりと自分の胸元にぶら下がるネックレスをつまむ。
それは、ランカがチャガの民からもらったものとまったく同じだった。
「まさか……」
ホークは思い出した。父がまだ生きていた頃のこと。
——瀕死の状態だった父を救ったのは、あのチャガの民だった。
「そのネックレス……どこで手に入れた?」
ホークはランカに問いかける。
「チャガの民から。私たちはそこから旅をしてきたんだ!」
ホークは目を閉じ、静かに息をついた。
「……そうか」
ホークは鳥の群れに命じた。
「こいつらを襲うな。奴らは我々の恩人の血を引く者だ」
鳥たちは戸惑いながらも、ホークの指示に従い、攻撃の手を止めた。
「助かった……」
マンジャロとヴェルは地面にへたり込み、安堵の息をつく。
***
ホークは、三匹を自らのアジトへと案内した。
「しばらくここで休め。怪我の手当てが必要だろう」
ホークの言葉に従い、マンジャロとヴェルは治療を受けながら、ホークたちと共に過ごした。
最初は警戒していたが、次第にホークたちとも打ち解けていった。
ヴェルは鳥たちと競い合い、マンジャロは飛ぶ感覚を真似しようとジャンプを繰り返した。
ランカはホークと互いの戦い方を語り合い、少しずつ信頼を築いていく。
「ここでずっと暮らせたらいいのにな……」
ヴェルが冗談めかして笑う。
「でも、私たちは行かないと」
ランカが静かに呟く。
ホークは頷いた。
「そうだな。お前たちの旅を邪魔するつもりはない。だが、森の奥には何かがいる……それを確かめる覚悟はあるか?」
三匹は互いに顔を見合わせた。
「もちろん!」
マンジャロが力強く答えた。
こうして、一行は光のある場所へと向かうことになった。
***
光のある場所へと向かう一行。
しかし、突然、木々がざわめき、空が揺れる。
「何かが近づいてくる……!」
その瞬間、闇の中から鋭い眼光が浮かび上がった。
「クロヒョウか!?」「違う……!」
それは、黒い靄のような体を持つ「異形の怪物」だった。
「……なんだ、コイツら……!」
マンジャロが警戒しながら身構える。
異形の怪物たちは執拗にランカを狙い、包囲網を作りながら迫る。
「私を……狙ってる?」
ランカは息を呑む。まるで、「目覚める前に消し去ろう」としているかのように。
「ランカ、逃げろ!!」
マンジャロが叫ぶ。ヴェルもランカを引っ張ろうとするが、怪物たちは彼女を囲むように動いた。
「ここで奴らを食い止める!!」
ホークが鋭く叫び、鳥たちとともに襲いかかる。
「光の方へ走るんだ!!」
ホークが決死の覚悟で戦いながら叫ぶ。
マンジャロ、ランカ、ヴェルは光の元へ向かって必死に駆け出した。
しかし、すり抜けてきた巨大な影が行く手を阻む。
「こいつ……!」
マンジャロが身構えるが、その瞬間、ヴェルが決意の表情を浮かべ、二匹を突き飛ばした。
「お前らは行け!!」
「ヴェル!!」
ヴェルは決死の形相でマンジャロとランカを光の中へと押し込み、異形の怪物たちに向き直る。
「頼むから、行ってくれ!!」
その瞬間、光が二匹を包み込み——
マンジャロとランカは、ヴェルに黒い影が覆いかぶさるのを最後に目にした。
***
気がつくと、二匹は柔らかな草の上に倒れていた。
見上げると、そこには——
キリマンジャロの雄大な姿がそびえ立っていた。
「ここは……?」
ランカが呟く。
「俺たちが……生まれた場所?」
しかし、二匹の心には、ヴェルやホークたちのことが残っていた。
「みんな……大丈夫かな……」
どうすることもできない無力感が、二匹の胸を締めつけた。