第五章「審判の刻」-Hour of Judgment-

神々の宮殿で突きつけられた、暴君としての過去。

ランカの身体は震え、マンジャロの瞳には絶望の影が映っていた。

「私たちは……許されない存在なの……?」 ランカの声は掠れ、涙が頬を伝う。

「違う……俺たちは……!」 マンジャロは拳を握りしめるが、心の奥底に渦巻く恐怖と後悔が、その言葉を飲み込んでいく。

その時——

「マンジャロ! ランカ!」

響き渡る仲間たちの声。

ココペリ、チムニー、ヴェル、ホーク。

涙を浮かべながら、駆け寄る彼らの姿が、霧のように揺らぐ記憶の中に飛び込んできた。

「……何をしてるの?」 ココペリが静かに問いかける。

「どこまでも一緒や言うたやんか」 チムニーは微笑みながら、ランカの前に座る。

ヴェルは息を切らしながら叫んだ。 「過去がなんだっていうんだよ! そんなの、今のお前たちが決めることだろ!?」

ホークの瞳が鋭く光る。 「この試練に飲み込まれるな。お前たちは、何のためにここまで来た?」

——何のために?

マンジャロとランカは、ゆっくりと顔を上げた。

***

再会を喜ぶ間もなく、ココペリが腕を組んでマンジャロをじっと見つめた。

「おい、ヴェル。こいつら、こんな泣きそうな顔する奴らだったっけ?」

「いや、俺の知ってるマンジャロはもうちょいマヌケな顔してた気がするけど……」 ヴェルが首を傾げる。

「お前な!」 マンジャロが思わず抗議すると、チムニーがくすくす笑いながら言った。

「でもほんまに無事でよかったわ……。もう二度と会えへんかと思ったんやから……」

ランカはその言葉に目を潤ませたが、照れ隠しのように拳を握りしめた。

「……それはこっちのセリフ。アンタらがここまで来るなんて思わなかったし。」

「そら当然や。なんやかんやで家族みたいなもんやしな。」 ココペリは肩をすくめた。

「というか、なんでお前ら、ヴェルたちと一緒にいるんだよ?」 マンジャロが疑問をぶつけると、ココペリは鼻を鳴らした。

「こいつらがうるさかったんや。『マンジャロとランカを助ける!』言うてな。」

ヴェルが得意げに胸を張る。

「いや、でも実際助かったやろ? 俺らがいなかったら迷ってたぜ?」

「いや、お前途中で道に迷ってたよな?」 ホークが冷静に突っ込む。

「う、うるせぇ! それは計算のうちだ!」 ヴェルが焦って言い訳をする。

「ま、何にせよ、助けに来てくれてありがとう。」 マンジャロが照れくさそうに笑う。

***

その時——

大地が揺れ、空が裂けた。

轟音とともに、世界そのものが悲鳴をあげる。

空に巨大な裂け目が出現し、そこから無数の光の粒が降り注ぐ。

だが、その光は美しいものではなかった。

それは無数の影——白銀の鎧を纏った神々の軍勢。

「やはり戻りましたね……暴君ランカ、そして狂犬マンジャロ」

冷たい声が響く。

「迎えに来たんじゃない。討伐に来たんだよ」

「何を言ってるの!?」 ランカが叫ぶ。

「貴方たちは、かつて神々を滅ぼし、この世界を恐怖で支配した存在。 再び目覚める前に、ここで封印させてもらいます。」

「違う!そんなこと……」

その時、二匹のネックレスが眩い光を放つ。 光の中から、優しいチャガの民たちの姿が浮かび上がる。

『信じてはなりません。 この者たちは、本当の神ではない。 あなたたちこそが、真の神なのです。』

「……嘘の記憶を見せて……俺たちを……?」 マンジャロの拳が震えた。

「最初から、俺たちを消すために……?」

神々の軍勢が剣を構え、一斉に襲い掛かる。

その時、ホークがふと気づいた。

「……この気配……あの時の怪物たちと同じだ!」

ヴェルも目を見開いた。

「まさか……森で襲ってきた奴ら……?」

「そうか……あいつらも反乱軍だったんだ!」 マンジャロが叫ぶ。

ココペリが吠え、仲間たちが次々に立ちはだかる。 「守るぞ!!!」

だが——

ココペリの俊敏さも、チムニーの怪力も、ヴェルのすばしっこさも、ホークの千里眼も—— すべて歯が立たない。 まるで圧倒的な力の壁。

「ぐぁぁぁ!!!」 「くそっ……!!」

次々と吹き飛ばされ、倒れ込む仲間たち。 それでも、誰も逃げなかった。

「俺たちが……時間稼ぐ!!行けぇぇ!!!」 ヴェルが震えながら叫ぶ。

その瞬間、神々の軍勢が眩い光を放ち、ランカの身体が光に包まれた。 「やめろ!!ランカーッ!!!」 マンジャロが涙を流しながら駆け寄るが、神々の軍勢が壁となり、近づくことさえできない。

「マンジャロ……」 ランカは涙をこぼしながら微笑んだ。

「絶対に迎えに行くからな!!!」 マンジャロの叫びが、空にこだまする。

「待ってるから……絶対に……!!」

その言葉を最後に、 ランカは光の柱に吸い込まれ、天へと消えていった。

静寂が訪れる。 血と泥にまみれ、満身創痍の仲間たち。

マンジャロの拳が震え、土に滴る涙。

「俺たちが……絶対に……取り戻す!!!」

その時、ふとヴェルが言った。

「……おまえ、その姿……」

マンジャロがゆっくりと振り返る。

「……え?」

ホークが目を見開き、ココペリも息を呑んだ。

「まさか……その紋様……」

マンジャロの背には、神の紋章が静かに、だが確かに浮かび上がっていた。